住まいを負の資産にしないために vol.3

財政出動(第2の矢)の話が、どうやら水面下で始まっているようです。

この1~2年間で安倍政権が仕掛ける2020年改憲に向けた戦いは、歴史上とても大事な話です。もしも2020年改憲が成就してもしなくても、安倍政権の戦いの後始末は、いつか誰かが必ずやらなければなりません。特に異次元緩和(第1の矢)は、出口戦略の話が静かに、かなりの切迫感を持って始まっています。

安倍総理の改憲スケジュールに沿うなら、2020年プライマリーバランスの黒字化は、ほぼ実現できなくなる筈です。先日も米国の前FRB議長バーナンキ氏が、金融緩和(第1の矢)だけでなく財政出動(第2の矢)で、アベノミクスの目標を達成する可能性に言及しました。財務省の財政再建が押され、積極財政派の声が大きくなってきています。たしかに、財政出動(第2の矢)は強力です。教育無償化などの政策で、子育て世代に事実上の給付バラ撒きを行った上、消費増税の「再々延期」か「無期限凍結」を決定すれば、あっさりと2%のインフレを達成し、アベノミクスの成功を宣言することも可能になります。

安倍総理は高い国民人気を背景に改憲を成し遂げ、国民は脱デフレの達成を喜ぶ、というのがこのシナリオです。しかし、第1の矢をさんざんやりつくした上に、第2の矢を射ちまくった後に日本経済、財政、社会に残るのは最悪の事態。それが、5年もすれば来る恐れがあるのです。

政府、国会、日銀などが、異次元緩和(第1の矢)の出口について、ひっそりと、かなりの数の考察を始めています。会見では出口を語るのは時期尚早と言っていますが、そろそろ正面から向き合う必要があるということは、日銀の黒田総裁も認めざるを得ないでしょう。

昨年9月以降、日銀の政策決定会合は、ほとんど目新しいニュースがありません。それもそのはず、現状維持以外の決定内容があり得ないからです。日銀はもはや身動きが取れない状況に陥っています。金融政策で2%インフレの達成がほぼ無理と答えが出ていますが、日銀が国債買い入れを停止すれば長期金利が維持できません。長期金利は上昇したら国家財政と日銀にダメージを与え、下落すれば金融システムに危機的な状況が生じます。そのため、物価目標が達成できようとできまいと、ただただ長期金利をゼロ近辺に固定すべく、一日でも長く国債の買い入れを継続すること以外、日銀には政策目標も手段もないのです。

しかし問題は、市中の国債が無限ではなく、日銀も無限にお札を刷っていいはずがない以上、この政策がいつまでも続くはずがありません。(日銀が国債を買いたいのに、売りがなかった日が今年になって既に3回あります。)しかるべき時に、第1の矢の終了すなわち出口について、国民と市場にきちんと説明した上で、実施する必要があります。

とはいえ難しいのは、うかつに出口に言及してしまうと、金融市場がパニックを起こし、株と為替に大混乱を引き起こし景気の腰を折ってしまう可能性があります。そのため、この問題には野党議員ですら及び腰で、国会等で本気で追及することができずにいます。民進党の前原氏の質疑を見た方は、そのように感じた筈です。

すでに日銀は極めて詳細な分析を終えており、やがて金融緩和の縮小(テーパリング)に転じ、長い時間をかけて金融政策の正常化を図るプランを複数のシナリオとともに作成し終えているそうです。また、いくつかの金融機関系のシンクタンク等で、日銀が水面下で策定している正常化プランに連動して、これを後押しする環境をじわりと構築していくために、独自の提言などを発表するようになっているとも言われています。

あるシンクタンク総合研究所が発表した提言には、
・日銀は自力でコントロール不能。すべては米国頼み
・日本の国債市場は麻酔にかかっている状況
・長期的に日本の金融システムが崩壊する恐れがある

不都合な事実がはっきり示され、異次元緩和の出口が模索できる条件として、
・米国が利下げに転じるまでの短い時間しかない
・日銀を「2%インフレ」の目標から解放すべき
・日本政府が日銀のバランスシートに責任を持つべき(つまり、税金を投入しないと日銀はデフォルトする)
といった切迫した事情が具体的に書かれています。

何れにせよ、出口に向けてかなりの慎重さが要求されます。実際、日本が出口戦略の方法を間違えたら、世界経済にとって巨大な波乱要因になります。また、たとえ正しく出口戦略を実施できたとしても市場との対話に失敗すれば、その瞬間に世界経済全体に大波乱を引き起こしかねません。こうしたこともあってか、バーナンキ前FRB議長は日本について財政出動に転じるという逃げ道を示したわけです。第1の矢が終わっても、まだ第2の矢があると、あらかじめ材料を示しておくことで、日銀が出口に移りやすくしたともいえます。

第2の矢の射直しと同時に、第1の矢の終わりが議論に上っているということは、しっかりと押さえておきたいところです。おそらく今年後半からはこうした議論が表立って報道され、来年4月からの日銀新総裁の選任にあたり、かなり重要な争点になっていくことと思われます。また、出口に向けての政府側の準備も、そろそろ始めておかないと間に合わなくなります。あまりにたくさん国債を買い過ぎたために、金利上昇による国債価格の下落にともなって、日銀は最大10兆円の債務超過に陥るという試算もあるほどです。政府が税金を投入して支援しない限りデフォルトする可能性があります。歴史を学べば、古今東西金利の急騰は一気に進むものですが、財政に余裕のない日本政府が、いきなり10兆円の支出に応じられるとも思えません。今から準備を重ね、市場に大丈夫ですよ、というメッセージを送っておかないといけない時期です。

第1の矢の終わりは、
・量の縮小
・金利の引き上げ
・日銀のバランスシートの縮小
に向かう訳です。

今、低金利で長期固定のローンを組むのは正解でしょう。また、量を縮小し金利を上げていけば、円高の圧力がじわりとかかっていきます。しかし、それらが国債価格の下落や日銀のバランスシート毀損を招き、財政や通貨の不安を引き起こす可能性があります。すると、一転して円安に向かい、日本経済全体が大きな不安に包まれかねません。
こういったセオリーが理解できていれば、投資においても大きな間違いはしないで済むと思われます。まだまだ先と思う方が大半でしょうが、具体的な日程が目の前に迫りつつあります。改憲のためにあと1~2年ほど、出口戦略の発動を延期して株価を維持したとしても、それ以後も異次元緩和を続行するのはまず無理です。

仮に、2018年か2019年くらいから「出口戦略」を発動し、その後かなり長期にわたって第1の矢の後始末をし、金融政策を正常化させる努力を続けるとしても、その間、どうしても金融システムは脆弱になります。なにより、どこかでは米国も利下げに転じるでしょうが、それが2020年代初頭であれば、日本の出口戦略は壊滅の恐れがあります。

今のまま行っても2022年以降に、日本財政はかなり厳しい状況になりそうですから、2020年に改憲を施行するために財政政策を転換すれば、2020年代に悲劇的な事態が発生する確率は高まります。始めるよりも終わらせるほうが、はるかに難しく失敗しやすいと言われます。特に負け戦の時の撤退戦というのは、かなり悲惨な状況にあいます。4年前に黒田総裁が華々しく放った第1の矢(異次元緩和)は、人類史上空前の政策でしたが、空前の撤退戦をそろそろ迫られている訳です。

少し専門的な話になりましたが、
1、金融緩和(第1の矢)が出口に向かうことによる金利の上昇
2、積極財政によるインフレ
が起こる蓋然性が高いことを理解しておいて下さい。